事業期間

平成22年3月1日〜平成25年2月28日

事業の目的・必要性

【事業計画の目的】

本事業では、創薬科学の世界拠点を目指す東京大学大学院薬学系研究科(以下、本研究科)において、本研究科に属する優秀な大学院生ならびに42才以下の有給若手研究者(ポスドク、研究員、助教、講師等:以下、若手研究者)を、国内のみならず国際的通用性のある創薬科学世界拠点メンバーとして育成することを目標とする。すなわち、本研究科の大学院生ならびに若手研究者の中から、研究の独自性、先進性、将来性、さらには指導者としての適正等の観点から候補者を厳選し、担当教員との交流の深い世界の超一流研究機関等への派遣を主軸とした組織的な海外派遣を実施することにより、創薬科学の分野で国際的に活躍する人材を集中的かつ高効率に養成することを目指している。

【事業計画の特色・独自性ならびに必要性】

本事業の代表研究組織である本研究科は、薬学の全ての分野において世界最高水準の研究活動を行い、これに裏付けられた教育活動により、創薬科学の発展に寄与する研究者の養成を教育・研究の目的としている。しかしながら近年、国際経験豊かな准教授、教授を中心とした研究業績の著しい伸びに比して、本研究科においても、こと人的ならびに組織的国際化の底上げという観点においては、若手研究者ならびに大学院生、さらにはそれを支える事務担当職員の国際化のスピードは必ずしも加速されていない。一般に、日本の若手研究者の留学離れの原因として、帰国後のポストの不安定性(出口問題)が大きく取り沙汰されているが、経済的理由等により海外派遣の機会を得ず、国際経験を積むことなく博士進学や研究者志望を断念する大学院生ならびに若手研究者が増加していること(入口問題)も極めて大きな問題である。特に、日本における創薬科学の世界拠点を目指す本研究科としては、大学院生、若手研究者、ならびに担当職員の海外経験ならびに国際化は喫緊の重要課題である。

 本研究科には、現在約200名の修士課程学生、約150名の博士課程学生、約50名の若手研究者が在籍している。これまでの海外派遣実績として、年間平均10-20名の修士課程学生、40-50名の博士課程学生、20-30名の若手研究者が、主に共同研究を目的として短期(2ヶ月未満)ならびに中長期(2ヶ月以上)に海外研究機関へと派遣されてきた。一方、これまでの海外派遣は、その大半が研究室単位の財源によって賄われてきたため、研究室毎の財政状況によって所属大学院生ならびに若手研究者の海外派遣状況が大きく影響を受け、優秀であるにも関わらず国際経験を積むことのできない結果も生んできた。最近、後述の国際交流委員会を中心とする本研究科における急速な国際化の取り組みに加え、本研究科教員が事業主要担当者として参画する3つのグローバルCOEプログラム(GCOE)からの支援により、博士課程学生に対する組織的な海外派遣が充実してきた一方で、現在においても、修士課程学生ならびに若手研究者の海外派遣、特に修士課程学生の国際学会発表や若手研究者の中長期的派遣による共同研究等のための組織的財源については確保されていない。本事業では、これまで本研究科において組織的に充当することのできなかった海外派遣対象、特に大学院生の短期派遣、若手研究者の中長期的派遣さらには担当職員の国際化の支援を中心に据えることにより、創薬科学世界拠点の持続的かつ確固たる基盤形成を図りたい。

事業の内容・実施計画

1.事業計画がカバーする学術分野

本事業が対象とする学術分野である創薬科学(Pharmaceutical Sciences)は、基礎生命科学を基盤として、医薬の創製、さらにはその適正使用までを目標とし、生命に関わるあらゆる物質及びその生体との相互作用を対象とする学問である。

具体的には、1)広く生命現象を解明し創薬ターゲットを発見するための生化学、分子生物学、遺伝・発生学、免疫・微生物学、薬物動態学、薬理・毒性学などを中心とする生物系薬学、2)機能的化合物を自在にデザインし合成するための合成化学、反応化学、天然物化学、ケミカルバイオロジーなどの化学系薬学、3)薬の性状や生体との相互作用を原子ならびに分子レベルで解明するための分析化学、構造解析学などの物理系薬学に代表され、以上の薬学における3大実験科学系をコアとして、真の創薬を指向する基礎生命科学分野である。

2.派遣対象者の選考基準・方法

派遣対象者の選考基準・方法本事業では、本研究科の大学院生ならびに若手研究者の中から、研究の独自性、先進性、将来性、さらには将来の研究指導者としての適正等の観点から候補者を厳選し、担当教員との交流の深い研究機関を中心に世界の超一流研究機関や国際学会等への派遣を予定している【図1】。若手研究者ならびに一部の博士課程学生が主な対象となるサバティカル研修プログラム(留学帰国後3年以上のシニアクラスの若手研究者を数週間から数ヶ月程度中期的に海外派遣し、その国際経験をさらに発展させ、国際的研究指導者としての基盤を確立させる:年間2名程度)、指導者国際化支援プログラム(経験的にはシニアクラスの若手研究者を、ジュニアな若手研究者や大学院生の共同研究を効率的に推進するために随行させ、国際的環境下において指導者としての経験を積ませる:年間5名程度)ならびに留学支援プログラム(将来、本格的に留学を考えている若手研究者ならびに博士課程大学院生(主に2年次または3年次)を、受け入れ機関との共同研究を基盤に積極的に中長期的に留学させることによって国際経験を積ませ、来るべき本格的留学を円滑に行えるように支援する:年間5名程度)においては、担当教員ならびにGCOE担当教員を中心メンバーとする創薬科学世界拠点形成プログラム運営委員会において海外派遣希望者から定期的に(毎月を予定)申請書の提出を募り、上記観点の下に候補者を決定する。候補者は担当教職員のサポートの下、受け入れ候補機関と連絡を取り、両者の合意の下に海外派遣時期、期間等を決定する。一方、博士課程学生(一部若手研究者を含む)をならびに修士課程学生(一部博士課程学生を含む)をそれぞれ主な対象とするGCOEとの連携による海外派遣プログラムならびに短期派遣支援プログラムにおいては、必要性に応じて柔軟に対応できるよう申請を随時受け付け、原則として研究室責任者の推薦状の添付を義務付けることによって、評価の迅速性を高める。両プログラムに関しては合計年間20名程度の派遣を予定している。

3.派遣者の安全確保等危機管理体制

東京大学においては、法人化に伴い、より確実な安全衛生管理を実現するため、全学的な安全衛生管理体制を整備している。海外派遣者に万一のことがあれば、申請機関として全学の危機管理の中で対応する。

また、本研究科としては、海外においても安全に研究等が行えるように、次のような方法で安全確保に努めている。1)海外でのトラブルを回避するための資料を配布したり、講習会を行う。2)派遣先の衛生状況に応じて予防接種などを受けるように勧める。3)東京大学の指導教員等に定時連絡を行うよう指導する。4)海外旅行保険などの加入を勧める。5)出発前に、派遣先および留守宅(又は実家など)の緊急連絡先を届けさせ、万一の時に緊急連絡がとれる体制をとる。特に「野外活動における教育研究活動」については、「安全衛生管理計画書」を出張命令に添付することとしている。

4.事業の将来構想

事業の将来構想本研究科は、創薬科学の世界拠点となることを目指しており、この目的を達成するためには、基礎生命科学を基盤として創薬科学を多面的に理解し発展させることができる国際的創薬科学リーダーを育成することが必須と考え、また、そのような若手研究者を本研究科が将来に期待する理想像のひとつとして描いている【図2】。

その将来構想として、人材育成・研究を支える資金面では、現行のGCOEプログラムにならびに本研究科の教員が獲得している各種科学研究費補助金に加え、平成19年度開始の「ターゲットタンパク研究プログラム」(研究代表者:本事業担当教員・長野教授)等を積極的に活用するとともに、生物系、化学系、物理系を中心に若干名の社会薬学系人材を加えた人材を学部・大学院のレベルから幅広く教育・育成することによって、世界拠点メンバーの人材的基盤を保全する。この人的ならびに資金的基盤を元に、世界最先端の創薬科学研究成果を継続的に国際発信することによって、優秀な外国人留学生・外国人教員の積極的受け入れを加速し、拠点の国際化を行う。さらに、本事業等による若手研究者・大学院生の海外派遣を介して、国際経験豊かな創薬科学拠点メンバーの育成を行い、その相乗効果として期待される優秀な学生・研究者のさらなるリクルートを目指す。この正のフィードバック機構が階層的に機能することによって、真の創薬科学世界拠点が形成されるとともに、本研究科が目指す「基礎生命科学を基盤として、創薬科学を多角的に理解し発展させることができる国際的リーダー」となり得る若手研究者の育成が可能となる。

5.事業の研究成果の若手研究者育成への反映・質の向上

【人材育成において期待される事業成果】

本研究科には、ここ数年継続して約200名の修士課程学生、約150名の博士課程学生、約50名の若手研究者が在籍しているが、これまでの海外派遣実績は、短期ならびに中長期のいずれに関しても世界拠点として十分なものとは言い難い。その大きな理由のひとつは、海外被派遣者の大半が研究室単位の財源によって賄われてきたため、研究室毎の財政状況によって海外派遣状況が影響を受けたためと分析される。本事業の推進により、優秀であるにも関わらず国際経験を積むことのできなかった大学院生や若手研究者にも海外派遣の機会が与えられることにより、実質的な人材の国際化を急速に推進することが可能となる。その結果として、【図2】に示す創薬科学世界拠点メンバーの加速度的な育成が可能となることが期待される。

【期待される人材育成の質の向上】

本事業の推進によって組織的な海外派遣が可能となることは、担当教職員のみならず、被派遣候補者が属する研究室教員、即ち本研究科のすべての教員が、創薬科学世界拠点の形成ならびに国際化に積極的に参画する効果が期待でき、全教員の国際化に関する意識向上が期待できる。その結果として、人材育成組織としての教職員自身の国際化における質的向上が大いに図られる。また、担当教員を中心に構成される創薬科学世界拠点形成プログラム運営委員会は、被派遣者の帰国後の研究奨励ならびに追跡調査を行い、本事業の効果を検証するとともに、さらなる人材育成方策の向上のための資料とする。